身震いするほど感動する空間体験

桐山  では最近手がけられたプロジェクトで印象に残るものはありますか。
橋本  どれも思い入れがありますが、とある展示会の会場構成が印象に残っています。展示台に畳を使ったんです。それも隆起を作ったりして平らじゃない畳を作り、そこに作品を置いてみました。畳という概念、在り様をちょっと変えてみたのです。
蜂須賀  ほうおもしろいですね。他にはありますか。
橋本  僕の仕事ではないですが、気になる空間ということで挙げると、正月にバルセロナでサグラダファミリアを見てきました。あれはすごいですねぇ。不思議な柱が走る大空間に、まだはめられていないステンドグラスが昼下がりの光を受けて下からあおるように天井にその姿を投影していたのを目の辺りにして、日本的な感覚でガウディみたいな空間を作ったらどうなるのかと想像が膨らみました。
蜂須賀  光もガウディにとっては素材感覚なんでしょうか。
橋本  そうでしょうね。ガウディの建築って一見有機的でどちらかというとグロテスクな感じだけれど、イヤじゃないですよね。なぜなんだろうって不思議に思うんですけど、一つには構造などを含めた緻密な論理とガウディの感性がくっついた結果でしょうね。彼は特に光に対する見方がすごくて結構計算して作っていますね。しかもそういうのって体験しないとわからない。これまでも伊勢神宮とか千利休の待庵とかローマのパンテオンとか、セナンクの修道院とかいくつか気に入った空間・建築があるのですが、サグラダファミリアもその仲間に加わりました。久しぶりに身震いするほど感動しましたね。


日本への思い

桐山  少し話が変わりますが、東京という街は現在ダイナミックに変容しつつあって、期待感が高まっています。橋本さんご自身は東京という街をどのように見ていらっしゃいますか。
橋本  すごくいい方向にむかっているんじゃないかと思いますよ。やっとデザインの意識が街づくりに芽生え始めたと感じます。最近の複合施設や大規模建築も必ずしもベストというわけではないかもしれませんが、変なものを作ってはいけないという意識はありますよね。
蜂須賀  80年代後半のバブル期にあった、個性を競い合うような時代とはちょっと今は違うようですよね。街のオリジナリティをどうハード、ソフトに融合させるのか考えているように思えます。
橋本  そうですね。バブル期の東京というのはすごくダイナミックだけど自分さえ目立てばいいという感覚があって、その目立たせ方にセンスがなかった。でも今はコンセプチャルで控えめに個性を匂わせています。これは「日本」というものがまた成熟した形で表出してきていることなのかなと考えています。バブル期の経済至上主義を経験した後、それらに違和感を覚え始めたときに、いろんな人が改めて日本を意識し始めたのではないでしょうか。以前は欧米を見習えという感覚がありましたが、今はまったくないですからね。
「日本」という切り口というのはすごくおもしろくて深いと僕は思いますよ。自然なものと人工的なものが歴史の中で入り乱れてきているので、切り口によっていつも違った発見ができますし、こんなにおもしろい文化や感覚を持っている国はないです。欧米にひけをとるどころかいろいろ自慢したいくらいの感覚にとらわれます。
蜂須賀  欧米とはデザインのアプローチの仕方が異なるけれど、日本のデザインの素晴らしさが浸透してきています。
橋本  日本は実はデザイン的には先進国といえ、特にアジア諸国は日本のデザインを取り入れていきたいという思いがあるんですよ。お隣の韓国はたとえば奨学金をだしたり海外留学をさせたりして国を挙げてデザインに力をいれていますよね。なのに日本ではなぜそういうソフトに国が目をむけないのか不思議でしょうがないです。デザインはこれからの時代を担っていくものだと僕は思いますよ。
蜂須賀  そうですね。では我々としては橋本さんのようなこれから20年、30年と活躍されるデザイナーと、すばらしいデザイン空間を作って頂けるような関係を素材を通じて提案していきたいと思います。
今日はいろいろな想いをお話いただいて本当にありがとうございました。


ひと皿の宇宙
松尾晋平の器に千住博が絵を描く(2005)
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